洞穴を改造した宴会場で、30人ほどいる俳優たちの打ち上げのために食事をつくり、飲み物を注いでまわっている。彼らは誰も配膳を手伝おうとしない。私は場の雰囲気をよくしようと、なかば強迫的に愛想良く、話をふったり笑ったりしている。ひとりの俳優が緑色のサングラスをかけているので「いい眼鏡ですね。どこで買われたんですか」と褒めたら、「これは野球してたとき監督からもらったんだよ。高校で。これをつけてるとスコープみたいにバッティングの照準を合わせやすい」と彼は説明をはじめ、私にサングラスを手渡す。私はそのサングラスをかけるが、しまった許可をとってからやるべきだったと考え、すぐに外して返した。

話をつづけようと「もうすっかりサングラスが馴染んでますよね。舘ひろしといえばサングラス、みたいな」と私が言ったとたん、俳優は黙り、怒りの表情をこちらに向ける。どうやら舘ひろしと並べられたのが不愉快だったらしいが、そこで腰をひくく接している自分の姿勢が急に馬鹿らしくなり、私は席をたった。会場には多くの食器やゴミが散乱していて、これを片付ける義務があるのではないかと考えたが、いやもう知ったことではないと、勢いのまま外に出た。

 

そこで視点がある女優に移る。彼女は盟友であった老監督と反りが合わなくなり撮影所を抜け出し、それから半年後に命を落としたが、死因は公表されていない。場を去るさい、彼女はセットのパネルひとつひとつに自分のサインを書いていったという逸話が残っている。

女優は降板事件から亡くなるまで半年の間に1本の映画に主演したが、それは彼女のキャリアから考えれば明らかに見劣りするB級ポルノであり、看板には彼女の下着姿が描かれていた。それを凋落とみて気の毒に思うファンも少なくなかったが彼女自身はむしろ毛色の変わった制作現場を面白がって、インタビューを受けるとき、わざとその看板と同じ下着姿で現れ、堂々と上機嫌に振る舞ったという。