ぼんやりテレビをみていたら激しい音と共に勢いよく友達が部屋にとびこんできて、肩から下げてるカバンの中身を床にぶちまけた。散らばったものはゲームソフトのようだけど、手にとればそれはプレイディアとか3DOだとか、どれも過去の遺物となったマイナーハードのソフトばかりだった。

「これ俺、全部ハード持ってないなぁ」と伝えると友達は悲しそうな顔をしたので、うーんと考え、そうか、こういうのはだいたいプレステ3で起動できるんじゃなかったかな、という気になって「プレステ3に入れたらいけるよ絶対」というと、友達は喜んで、よかったよかった。じゃあゲーム始めるぞ。みたいな和やかな雰囲気になったけど、しかしよく考えたら私はプレステ3を持っていないのだった。

友達は「もうゲームは諦めよう。ないものはしょうがないしな。それにしてもお前さ、おかしな髪型してんね?どうしたん。なんなのその髪型、へんな格好して」と私のあたまを触って言う。そんなに変な髪型をしてたっけと鏡をみて自分の後頭部を撫でてみるが、なんの変哲もない短髪でどこがどう珍しいのやら全然わからない。そんな調子でなにを話しても彼との会話はかみ合わないのだが、とにかく久しぶりに会ったんだからこのくらいちぐはぐなのは当然だろう、彼は長旅からかえったばかりで興奮状態にあるんじゃないかと、あまり気にしないようにした。友達はうちわで自分の顔をあおいで気分を落ち着かせようとしているようだった。白地のうちわには墨痕鮮やかに「Fm」と書かれている。これはおそらくCメジャーキーにおけるコードのFマイナーで、少し気分が浮いたような、もやっとした空気感をあらわす意味のデザインなんだろうと思う。

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