私は広い敷地の温泉旅館で迷っている。近くの立て札を読むと「丘をひとつ越えれば露天風呂にたどり着く」そうなのでそこへ向かってみることに決めたが、歩くほどにどんどん道が細く、荒くなって、とても優しく人を迎える心のある通路とは思えない。
やっと着いた温泉は、誰も居ない川だった。温泉水が流れているようだが、みたところ深い場所でも膝くらいの水深で、傾斜があるためにすべって危なそうでもある。脱衣所がなく、そもそもどこから入るのかさえ示されていない。
そこの立て札によれば「時刻によって温泉の水量が変わる」らしい。
時計をみればまだ午前中なので、一度旅館の部屋で休み、夕方ごろまた同じ場所に戻った。と、今度は川びっしりの人だかりだった。午前中とくらべて水量に期待したような変化はみえない。中国の流れるプールの写真を思わせる、飽和しかけた密度。どうやら混浴のようで男女が入り乱れており、家族連れが多いのだが、皆寝転ぶような状況でつかっているし、寝転んで体を浸せる水位の場所も限られているような状況だから、半分の人は尻と足に流水をあてているので精一杯だ。なぜ家族を連れてこんなところに大勢来てるんだろう?せめて空いてる時間を選べばいいのに。と思いながら、私は服を脱がず、足湯で暖をとっていた。