動物園。ペンギンとナマケモノの小屋の側にいる。両方の扉は開き、動物たちはそこを自由に出入りできる。腹の部分の毛がレモン色のペンギンがよちよちと寄ってきて(そのとき自分はこの黄色いペンギンを目当てにここに来たことを思い出す)、眺めていると、そのペンギンは体をひねって尾から嘴で脂をとる体勢をとった。すると奇妙なことに、ペンギンの毛の一部はより集まることで淡い緑色に変わって、そこに複雑な紋様が現れた。菊の花に似た造形には、和菓子職人が精巧に仕上げたような機能美があり、ああこれこそが生物の面白さなのだと思った。

ペンギンは伸びを終えるとさっと空を飛び、旋回し、私の腕に止まろうとした。普通よりは小柄なペンギンである。とはいえ、カラスより大きな体をもつ鳥が腕に捕まれば怪我をするかもしれないから、私は懐かれたことを嬉しく思いながらも、腕を隠して身をかわした。

右側にはナマケモノが5匹ほどかたまっている。そのうちの1匹に手を伸ばすと、彼は(雄なのだとなぜかわかった)こちらに身をよせて抱きついてきた。ハグというにはあまりに力が強く、私は拘束されているような状態になった。そのなかでナマケモノの丸い耳たぶを触ると、ほとんど同時に彼の右手も、私の左耳をつまんだ。やはりきつくつねるような加減で、痛いか痛くないかギリギリだったけれど、それでもナマケモノの世界では優しいスキンシップであることが伝わってきたから恐れは感じなかった。隣では、べつなナマケモノが我々のじゃれあうのをみて、長い両腕でしっかり地面をおさえ、ブランコをつくるように体を浮かせ揺らしてみせた。おい、つぎのハグは自分の番だよと主張するように。