もうすでに取り壊されたはずの母の実家に、たくさんの知り合いが集っている。薄暗い居間には小学校のクラスメイトたちが並んでいて、彼らは子供だったり成長した姿だったりと年齢がまちまちに見えておかしな感じがするけれど、そこに鬼籍入りした祖母や叔母…

動物園。ペンギンとナマケモノの小屋の側にいる。両方の扉は開き、動物たちはそこを自由に出入りできる。腹の部分の毛がレモン色のペンギンがよちよちと寄ってきて(そのとき自分はこの黄色いペンギンを目当てにここに来たことを思い出す)、眺めていると、そ…

スマホをこちらにかざしながら若い男が近づいてくる。どうやらニコ生で配信中らしい。私はなぜか彼に親しみを覚え、配信をみている人に向けて笑顔をつくってみせる。 黒縁メガネのその男は黙ったままリュックを肩から外し、中にある大学ノートを差し出して「…

みかんの皮を縫いあわせ、みかんを入れる袋を完成させた。オレンジ色の皮に黒の縫い糸が走って表面はバスケットボールのようだけど、形は自立できるように三角錐でスマート。我ながらうまく作ったのではないかと思う。

右手をひらき猫の背中に乗せ、そのまま操作できるゲームコントローラーを開発しようとしている。どんなひとから命令されたのかは忘れてしまったけれど、とにかく作業にかからないといけないことは決まっているようだ。 左手に持つコントローラーにはスティッ…

夜の公民館で会議を終え、玄関で靴を履こうとしているときに自分が素っ裸であることに気がついた。まわりには作業している女性たちがいて、そのうちの何人かが私の姿をみて「キャーもう!」と叫んだけれど、その声にはびっくりした感情も非難の色もなく、こ…

だだっ広い野原の下生えから猫が顔を出し、身を低くしながら近づいてきた。飼い猫のたまに似ているけれど、もっと色素がうすくて模様のない、その正真正銘の白猫は、警戒するようすなく私のそばまで歩き、後ろ足2本で立ちあがり、それからおがむように前足を…

8人くらいで集まって酒を飲んでいる。ザワザワした声の重なりには暖かさを感じるけれど全員が初対面の様子で、だれの態度もどこかぎこちない。当たりさわりのない話題を選び、摩擦が起きないように気を配る、表層的な社交の時間。そのなかで私は最近発売され…

夜道を歩いているとすこし先に、フエキ糊マスコットキャラクター、フエキくんの姿が見えた。電灯に照らされた黄色い顔、赤い帽子──工事現場を思わせる配色の中にある大きな眼球の白目部分は、くっきりキラキラした輪をつくっているけれど、銀にふちどられた…

陶芸教室で知人たちが皿を作っている。私はここに1度来たことがあり、いい場所だからといってみんなを誘って今こうして集まっているらしい。「らしい」というのは、すっかり教室での記憶を失ってしまったからで、あまりその時のことを質問されたら困るなとい…

小学生時代の友達が家にやって来た。めったとない機会だからゆっくり話をしたかったが、彼は出したお茶に手をつけず「リングの仕事があるから」とだけいって早々に席を立った。玄関で靴をはいているときに「そうだお前、電池を持っていないか」と尋ねてくる…

市議会の傍聴席で質疑応答を聞いている。議論のテーマは、テンテンヤンと呼ばれる生物が森を荒らしている状況をいかに改善するかについて。野党議員は、広範囲に罠を仕掛けるため自衛隊の支援を求めるべきだと主張する。それを受けた市長は野生生物保護の観…

漫才師と商店街巡りのロケをしている。一人の芸人は背が高く、もう一人はかなり小柄でうしろ姿は小学生のように見える。 大通りから覗く道幅の狭いアーケード商店街はシャッターが目立つ。背の高いほうの芸人が、歩きながらそれをさして「こんなんだと、この…

部屋のテレビで怪獣映画をみている。それは大勢のひとびとが団結して敵に立ち向かう物語、ではなく、ある家族が怪獣の暴力から逃れるため移動する『怒りの葡萄』のようなロードムービーで、そこでは一家が電車に乗るたびにライヒの曲が流れる決まりのようだ…

部屋の掃除をしていて、棚の裏に挟まっている青い封筒を2つ見つけた。これは10年以上前に契約していたTSUTAYA定額宅配レンタルの封筒だ、と気づき、手にとってみると、中にそれぞれ3枚ほどのCDかDVDかが入っている重みを感じる。少なくとも10年だ。いったい…

近所にマクドナルドの新店舗ができんだってよ、と電話で知り合いから教えられた。それは世界で初めて湖の底に建てられたマクドナルドであり、開店特別メニューとしてしばらくのあいだチキンナゲットの黒酢あんかけを売り出すのだという。 ぜひ味わってみたい…

街から遠くはなれて、私は小さな土蔵を借りて生活している。レコードを10枚ほど軒先の棚に置いていたはずだけれど、外にでて見ると、それらは全て盗まれてしまっていた。まわりには木が生い茂って門はない。だから誰でもどこからでも忍び込める構造ではある…

部屋に暖房をいれて待ってみても外で浴びた冷気が体に居座るので布団に潜りこんだが、毛布のぬくもりは芯まで届かない。とりわけ右足の指先からふくらはぎにかけて氷のように冷たい。あまりにも右足がしびれるから、悪寒の根本原因はここなのではないかと思…

とある企業がスズメ忍者という名のキャラクターを売り出すつもりらしく、私はその衣装制作に携わることになった。 まずは雀の特徴である尖ったくちばしを立体マスクで表してみようと布を選ぶが、その色を本物のとおり黒でいくか、それとも黄土色にするか悩ま…

知り合ったばかりの女性と知らない田舎町を巡っている。左右をセイタカアワダチソウが占領した畦道を通りながら、廃屋の屋根にかぶさるほど大きな銀杏の木が金色の葉を散らしているのがみえた。いくつかの商店を横切ったが、いずれも中は暗く静かで営業して…

友達と旅行していたはずが間違った駅で降りて1人になってしまった。次の列車がくるのは3時間後らしいから、ちかくのデパートで時間をつぶそうと思った。 建物に入ってすぐ、食レポ番組の撮影と出くわした。邪魔にならないように避けたけれど、移動した先でま…

席がひとつだけのこじんまりとした散髪屋で髭を剃ってもらっている。手際よく剃刀をあてる店主の姿を薄目で眺め(しっかり目を開こうとはするけれどうまくいかなかった)、印象付けられるのは彼の額の広さだった。色白でつるんとした曲線をつくる額は大きな鳥…

雑居ビルの屋上に建つプレハブ小屋を借りて生活している。ここは静かで眺めはいいし、サイズもちょうどいいし、窓を開ければ涼しい風にもあたれて住み心地は悪くない。 そこに、小学生高学年くらいの男の子たち5人ほどが自転車に乗ってやってきて──どこから…

ボクシングの試合に出なくてはならないらしい。控室は用意されておらず、私はこれから戦う相手とおなじ空間にいて世間話をしている。相手は山本kidに似た顔で、身長は低いがたくましく筋肉が盛り上がり、どうみても自分より強い人間と思われる。というかその…

人の流れにのって細い道を歩いている。まわりはみんな駆け足か早歩きで急ぎ、競争しているような雰囲気だった。自分はそれに参加した憶えはないし、慌てることはないと考えてゆっくり進んでいるが、半面では走ろうと思ってしかし足が言うことを聞かないもど…

不良の先輩2人と一緒にバイクで山道を走っている。 彼らは余裕をもってスピードを保ったまま複雑なカーブを曲がることができるが、慣れない私は置いていかれないように動きを真似るのと、事故の恐怖心をふり払おうとするのに精一杯で、景色を楽しむような状…

大きなホテルに閉じ込められている。 このホテルはカードキーを使って外に出る仕組みになっているが、私はそれを持っていない。ということは、どうも許可を得ず忍びこんでしまったらしい。 こうなればもう、誰かがガラスのドアを開けたのに合わせて、気づか…

女性がひとり布団に横たわり、薄目でこちらを見ている。その側であぐらをかいて座る私は、細い棒を右手に握っている。棒の先には茶色く愛想ない紙風船がついていて、私は手首を返し、それを彼女の体の上で左右に往復させる。ゆっくりと、うちわを扇ぐように…

フローリングの床に、ぽっかりとマンホールほどの穴が空いている。垂れたロープを握って降りると、下の部屋では、飼い猫のたまちゃんが箪笥に乗って毛繕いしていた。たまちゃんは私に気づいた様子で少しのあいだ視線を合わせ、それから目を細めてうしろをみ…

背中に乗れそうなほど大きな豚を連れて、背の高い男がやって来た。彼は立ち止まると、両手で豚の眉間あたりをつかんで、そこから鼻筋の中間あたりまで軽く腕をすべらせた。するとその部分の皮が、靴下をおろしたようにきれいに剥がれてしまった。鼻の中には…