2023-01-01から1年間の記事一覧

だだっ広い野原の下生えから猫が顔を出し、身を低くしながら近づいてきた。飼い猫のたまに似ているけれど、もっと色素がうすくて模様のない、その正真正銘の白猫は、警戒するようすなく私のそばまで歩き、後ろ足2本で立ちあがり、それからおがむように前足を…

8人くらいで集まって酒を飲んでいる。ザワザワした声の重なりには暖かさを感じるけれど全員が初対面の様子で、だれの態度もどこかぎこちない。当たりさわりのない話題を選び、摩擦が起きないように気を配る、表層的な社交の時間。そのなかで私は最近発売され…

夜道を歩いているとすこし先に、フエキ糊マスコットキャラクター、フエキくんの姿が見えた。電灯に照らされた黄色い顔、赤い帽子──工事現場を思わせる配色の中にある大きな眼球の白目部分は、くっきりキラキラした輪をつくっているけれど、銀にふちどられた…

陶芸教室で知人たちが皿を作っている。私はここに1度来たことがあり、いい場所だからといってみんなを誘って今こうして集まっているらしい。「らしい」というのは、すっかり教室での記憶を失ってしまったからで、あまりその時のことを質問されたら困るなとい…

小学生時代の友達が家にやって来た。めったとない機会だからゆっくり話をしたかったが、彼は出したお茶に手をつけず「リングの仕事があるから」とだけいって早々に席を立った。玄関で靴をはいているときに「そうだお前、電池を持っていないか」と尋ねてくる…

市議会の傍聴席で質疑応答を聞いている。議論のテーマは、テンテンヤンと呼ばれる生物が森を荒らしている状況をいかに改善するかについて。野党議員は、広範囲に罠を仕掛けるため自衛隊の支援を求めるべきだと主張する。それを受けた市長は野生生物保護の観…

漫才師と商店街巡りのロケをしている。一人の芸人は背が高く、もう一人はかなり小柄でうしろ姿は小学生のように見える。 大通りから覗く道幅の狭いアーケード商店街はシャッターが目立つ。背の高いほうの芸人が、歩きながらそれをさして「こんなんだと、この…

部屋のテレビで怪獣映画をみている。それは大勢のひとびとが団結して敵に立ち向かう物語、ではなく、ある家族が怪獣の暴力から逃れるため移動する『怒りの葡萄』のようなロードムービーで、そこでは一家が電車に乗るたびにライヒの曲が流れる決まりのようだ…