従姉妹と港町を歩いている。天気がいいし釣りでもしようという話になり、川辺の釣具店に入る。薄暗い店の奥から、みたところ80歳くらいのおばあさんが現れる。ひとりでやっている店らしい。「バス釣りをしたいんですが」と言うと店主は、珍しい注文を受けたな、とでもいうようにしばらく考えこんで「じゃあこの竿かな」と竿を一本従姉妹に手渡す。店主は背が低く腰が曲がって、下をみたまま話すので表情を確認できない。

渡された竿にはすでに糸と針が付いているのだが、どうも針の数が多すぎる。一目では把握できないが15個以上はあるだろう。針ひとつひとつに団子を練ってひっかける仕掛けらしいが考えただけで面倒くさい。店内はもちろん風は吹いていないし、従姉妹は竿を振っているわけではないのに、なぜか糸が大きく揺れて私の顔や首に当たり、ちくちくと痛む。髪に絡まったりしたらかなわない。「ちょっとバス釣りには向いてなさそうなんで別なのあれば見せてもらえますか。ルアー投げるタイプがいいです」と言うと、店主は別な竿を私の手に握らせる。

今度の竿は、太くて重すぎ、糸のかわりに布がついている。これはカバーなんだろうか、何のための布なんだろうと広げるとジャビット君の柄が現れた。これはどうみても釣り竿ではなくて巨人軍の応援旗だ。しかも薄汚れて生地はところどころ綻びている。店主は手首を上下させて、振ってみろというジェスチャーをするので従うと、旗の先からオレンジ色のルアーがとび出した。従姉妹は機嫌よさそうに笑顔をみせ、財布に手を伸ばしている。この旗を買うつもりらしい。