草野球のバッターボックスに立っている。私は通常の半分くらいの長さしかないバットを片手に持って、羽子板を振るようにスウィングする。と、ボールは大きくフライしてそのままスタンドに入っていった。かるい手応えと飛距離がつり合わない、妙な感じがする。次の打席は先ほどよりあたりの浅いチップフライだったが、またボールは高く浮き上がり、はるか彼方の場外へファールボールが飛んでいった。広い羽を持つ鳥のように、安定して、速度を変えず、なめらかに。

「今日は風がすごいからなぁ」とチームメイトが言った。地上では感じられないが、上空では強風が吹き荒れているのだ。誰が打席に立っても、バットに触れさえすれば打球は風を受けてホームラン性の当たりになってしまうので、選手たちは大半の時間空をみていることになる。試合開始当初の興奮はおさまり、いまは真剣勝負というより気候の観察会と言った方いい、平和で穏やかな雰囲気が流れている。スコアが3桁に迫ろうとしたころ、審判が両手をふってコールドゲームを宣言した、けれども、どちらが勝ったのか判然とせず、喜ぶものも悔しがるものもない。空を見上げると爽やかな快晴で、目をこらしてみても風がどちらへ吹いてるのか見分けるのは難しい。足元に落ちているボールを拾い上げ、アンダースローで投げると、それはカーブをくりかえしながら空に吸い込まれて消えていった。

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