ダブルベッドの上に寝転がり、頭を枕にのせる。額には文鳥が一羽とまって、じっと暗い窓の外をみている。私はひどく疲れて体を動かすことができない。今日やるべきことはやり終えたし、もう水一杯要らない。何もせずこのまま眠れたならそれでいい。意識が遠のくのを待っていると、文鳥が「ピッ」とひとつ鳴いた。それと共にブラウン管テレビの砂嵐の映像があらわれ、すぐに消えた。砂嵐は確かに目の前に見えたのだけど、この部屋にテレビはないのだからそれはイメージと呼ぶべきものなんだろう。また文鳥が頭上で「ピッ」と鳴くと、やはり砂嵐がみえた。ふたつは連動している、というか、鳥の声が砂嵐を呼び寄せているのか。不規則に文鳥はさえずりを続け、その度に砂嵐は実体を感じさせる解像度で、さらに視野を広く覆っていく。まるで鳥の声が幕をあげて、彼岸の混沌を見せてくれているようだと私は思う。

もし砂嵐の中に入れたなら、いったい私はどこにいることになるのだろうか。とりとめなく考えるうちに、本当のところは、文鳥は頭の上に乗っているのではなく砂嵐の中にいて、私を呼んでいるのではないか、という気がしてくる。鳥は遠く嵐の向こうから、「来い」と言っている。きっとそうだ。静かなホワイトノイズがどこからともなく聴こえる。その響きは鳥の歌と重なって耳に心地いい。

 

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