背中に乗れそうなほど大きな豚を連れて、背の高い男がやって来た。彼は立ち止まると、両手で豚の眉間あたりをつかんで、そこから鼻筋の中間あたりまで軽く腕をすべらせた。するとその部分の皮が、靴下をおろしたようにきれいに剥がれてしまった。鼻の中にはひろい空洞があり、卵が2個収まっている。豚は出血していないし痛がりもしない。きっとこれは特殊な手術をしたからとかではなくて、すべての豚には同じような収納場所が鼻に隠されているんわけだなと、私は感心していた。豚の鼻先には余った皮がだぶついている。これを引き上げれば元通りになるのだろう。

男は私に卵をプレゼントしたいと申し出た。ありがたく受けることにしたが、その前に、このめずらしい状態の写真を撮りたいと思ってスマホのカメラを向けた。我々が居るのはみどり豊かな高原で、遠くには冠雪した尖った山がみえた。私は豚と風景をフレームに入れようとあちこちアングルを変えるが、低く構えれば鼻の卵が隠れて、上から撮るとこんどは山の頂がフレームから外れてしまうのだった。距離をとって試してみたが、どう工夫してみても両方いっぺんには写らなかった。

 

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