町内の寄り合いに参加して、同年代の人たちと話をしている。それぞれコロナ感染予防の距離を保っているがマスクはしていない。もともとこれといった目的のない会だからみんな自由に喋っていて、特に伝えたいことがない自分は聞き役に回っていた。やがて話題も尽きたのか、おひらきの雰囲気になって、正面に座る男性が「じゃあ最後にポーズをとって終わりにしましょうか」と提案した。大人たち各々が面白いとおもうポーズを、順に子供たちの前で披露して楽しませようという意味らしい。周りはそれに賛成し、自分も流されて「いいですね」と返事した。そうなると急いでポーズを考える必要があるけれど、頭を悩ませた結果、指でわっかを作って目にあてて、ウルトラマン!と言うことくらいしか思い浮かばなかった。でもまあ相手は子供なんだから、大きい声を出したらそれで受けるんじゃないか、と私は妙な自信を持っていた。何はさておき、こういうのは務めて照れずにやるのが肝心だ。

私の出番前に「ポーズをとる」のは大地真緒と久本雅美だった。2人は部屋のすみで素材を組み立てて、長い龍をつくりだした。それは中国の祭りである龍舞に似てみえるが、ちがいは棒でつないで振るのではなくて、大地と久本が龍と同化しているところである。きらきら光る鱗がつぎめなく龍の胴体と人の腰をつないである、その技術だけみても相当に高度なものだし、仮装として完成されている。前部を大地、後部は久本が担当し、2人は息を合わせ走り出した。胴体は中央でばっさり切られていて、つまりこれは龍の下半身が上半身を追いかける設定のコントらしい。うしろの久本は「お腹が減った、お腹が減った」と訴えながら駆けて、逃げる大地の右手には赤い箸がにぎられ、龍の鼻先には味噌汁の入ったおわんが乗っている。こぼれそうでこぼれない味噌汁をみて子供たちは声をあげて喜んだ。

ウルトラマンのポーズでいいだろうとたかを括っていた自分は甘かったと思った。とはいえ、予定を変えるにしたって、こんなしっかりした芸のあとでいったい何をやればいいんだろう。

 

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