だだっ広い野原の下生えから猫が顔を出し、身を低くしながら近づいてきた。飼い猫のたまに似ているけれど、もっと色素がうすくて模様のない、その正真正銘の白猫は、警戒するようすなく私のそばまで歩き、後ろ足2本で立ちあがり、それからおがむように前足を互いにこすりあわせる──と、その部分から細くて高い、口笛のような澄んだ音が流れはじめた。メロディは祭囃子みたいにくり返すけれど、和というより洋風のあかるい音階をもっている。私は邪魔をしないよう猫の腹のあたりに視線をむけてそれを聴く。つよく吹く風には冬の冷たさがあり、しかし景色は春のやわらかい色に包まれている。白猫はいつまでも演奏をつづけるので私はその場から離れる気になれない。