夜の公民館で会議を終え、玄関で靴を履こうとしているときに自分が素っ裸であることに気がついた。まわりには作業している女性たちがいて、そのうちの何人かが私の姿をみて「キャーもう!」と叫んだけれど、その声にはびっくりした感情も非難の色もなく、こういうときには「キャーもう!」と、古い漫画のようにわかりやすく返すものだ。という、ただ儀礼的なことばを選んだに過ぎない落ち着きがあって、私はその乾いたトーンをありがたく思った。決まりきったふきだしが現れ、それがクッションになっているのだと。

それで、近くに落ちていた(たぶん彼女たちが洗濯した)大きなTシャツとジーパンを着て外に出た。正面にはあかりの灯った誰もいない公園が寂しそうにしていた。

 

私はいつの間にか広い座敷にいる。中央にごちゃごちゃとおもちゃが集まっているのだけど、それはよくみればバラバラになった鉄道模型で、そばにいた父が「つくるんか?」と訊いてくるから、思わず「うん」とこたえたけれど、じっさいのところ本当に再構成したいのか自分にもわからない。しかし首をたてに振ったからにはやるべきなのだと思い、ジグゾーパズルの始めのようにざっと全体を確認してパーツを組み立て始める。

青色の電車を手にとって、それについているスイッチをおすと、電車自体が動力を持っているようで動き出した。でも線路が完成していないからすぐに脱線し横転してしまう。手さぐりで部品をかきあつめ、つなぎ、伸ばしていくうちに、私は復旧作業に夢中になっていった。

 

そうしていると、屏風の裏から背の高い、薄い髪を茶髪にした、伯父によく似ているが、しかし初めてみる顔のオジサンが顔を出した。

オジサンは線路を完成させる手助けをしてあげるよと私に告げる。彼はおそらく、散らばる部品それぞれがきれいに繋がっていたむかしを知っているのだと思う。私は頼りにできるひとが現れたことに感謝して、オジサンの指針に従おうと決める。

オジサンは部屋の隅にある壊れたプラモデルを指差して「まずこれからやろう」と言う。「これはね、これからつくる鉄道の寝床になる」

それはどうみても車両基地ではなく、自動車のための立体駐車場なのだけど、そのちがいについて私は疑問を持たない。

立体駐車場は複雑な形だし、組み立てなおすのは一苦労だろう。でもすでに自分はこの作業を楽しんでいるのだから、時間さえかければいつか出口がみえるだろうと軽い心持ちでいた。初めにこれさえつくれば、線路はなくても何らかの平穏は訪れるはずだ。

それからしばらく組み立てをつづけ、少し休憩しようと顔をあげたら、オジサンはもう居なくなっていた。あの寂しい公園に行ったのかもしれないと思った。