8人くらいで集まって酒を飲んでいる。ザワザワした声の重なりには暖かさを感じるけれど全員が初対面の様子で、だれの態度もどこかぎこちない。当たりさわりのない話題を選び、摩擦が起きないように気を配る、表層的な社交の時間。そのなかで私は最近発売されたばかりのブーメランを投げている。

そのブーメランはCDの直径を倍ほどにした大きさの、チャクラムとも呼べそうなドーナツ型。おそらくパイン材の板で、手に取ってみれば想像よりずっと軽い。目立たないように手首をつかってそっと投げてみると、それはなめらかな軌道を描いて青い空(それでここが室外だったことを知った)を泳ぎ、ちょうど受け取りやすい手元に返ってきた。2度3度試したが、どれほど当てずっぽうに放ってもぴったりした位置へ、よく懐いた鳥が指に止まるように戻って来る。木は柔らかくてキャッチしたときの痛みもない。

これはすごいな。もしかしたら画期的な発明なのではないか。どこでもいいが、テレビショッピングで、たとえばジャパネットが紹介したならヒットするのは間違いないだろう。そう思い、となりの人に薦めてみた。

ブーメランを受け取った男は、仕方ないからついでにやるか、といった風に、周りと会話しながらブーメランを飛ばす。と、それは空中を彷徨ったあとやはり元の位置に戻るのだが、男はよそ見しているので自分がかわりに取ってやった。もう1度手渡すと、彼は同じように投げる。しかしすぐに興味を失い、ブーメランから意識を逸らしてしまう。だから再び私が手を伸ばして横取りする。彼はお喋りに夢中で、ブーメランの性能を知ろうという気がまるでないのだ。私はそのことについて残念に感じる。一方で、こんなに気の向かない人が投げてもきちんと返ってきたのだから、ブーメランの優秀性はより確かに示されたのだと思う。

我々のやりとりを見ていたべつな男が、伸びのある声で「こりゃいいブーメランだね。河原で遊ぶのに持ってこいじゃない」と言った。彼はおそらくカップルで遊ぶときにいい商品だと言いたいのだろう。私は「そうですね」と返事したけれど、しかし考えてみればこのブーメランは誰かと投げあうというより、けん玉のようにひとりで繰り返すことに完結した道具なのだから、複数人で楽しむのにはあまり向かない物なのではないかと思った。