母、兄、私、3人でカニ料理店にきている。日本の城を模したようなつくりの大きな建物。座敷で話をしていたが、兄がなにか落ち着かない様子だ。その店の中には疎水が流れていて、外までながくながく続くのがみえる。兄は「料理が来るまでには戻るし」といいのこし、その水路(左右にレンガの歩道がある)に入っていってしまい、すぐに見えなくなった。

やがてカニが部屋に運ばれ、飲み物の準備も整った。私は兄をよびに水路の方にむかうが、薄暗く灯もっていた電気がすべて消えて、自分の足もみえないほどの闇になっている。これでは彼は帰ってこれないのではないか。しょうがないから連れ戻そうとその水路を私も歩いてすすむ。兄を救わなければという気持ちというよりは、おどろおどろしく恐い世界への、子供っぽい好奇心から。

声を出しながら暗い水路をあるく。進めば進むほど水の匂いは臭くなり、足場もヌメヌメとして下水にいるような感じになってくる。
右手に光の漏れている扉をみつけ、入ってみる。中はホテルの一室だった。テーブルに中華風の蒸し鶏が置いてあって、私はそれをすべて指でつまんで食べた。
バスルームから足音がきこえる、と思ったらすぐに清掃員のおばさんが私の目の前にやってきた。言い訳もできないので謝ろうとすると、おばさんは私が客だという感じで、丁寧におじぎをして去っていってしまう。ごまかせた様ではあるけど、おばさんは私を部外者と知っていたに違いない、という確信がなぜか私にはあった。

そのホテルのフロントまで走り、きちんとした出入口から外に出ると、そこは昔住んでいた家のすぐそばだった。
あたりは街灯がついて明るく、これなら兄は無事だろう、ということをとりあえず報告しにカニ料理店にもどろうと私は思うが、もはやどう帰るのかわからなくなってしまっている。