平安神宮に似た、立派な神社に来ている。ガイドに案内され、靴を脱ぎ中に入ると、そこは神社ではなく巨大な駄菓子屋だった。
私は夢中でカゴにお菓子をたくさん入れる。少年時代に食べたお菓子は、迷わずに全て。これを逃したら二度と出会えないだろうと思ったから。

小さなカゴはすぐにいっぱいになり、私は上にのった水色の飴を食べる。しばらくなめていると、飴から曲が流れ出す。口がスピーカーになったような具合で、大きな音が私が歌っているみたいに鳴り、それに合わせて踊ると、まわりの人が拍手をした。
飴のパッケージには宇宙刑事ギャバンによく似たメカヒーローが描かれていて、ながれている音楽はその番組の主題歌のようで、それは曲調も歌唱法もニューウェーヴ的で、ヒーローであることを自嘲してるような歌詞だったのだけど、そのちょっとふざけた感じが格好いいし、リズムも心地良い。

ガイドからはぐれ、ひとり建物内を進むとあたりはだんだん薄暗くなっていき、最奥には文房具が並んであった。よくみるとその文房具屋の品は筆ペンだらけで、ペンひとつひとつに試し書きした紙が飾ってあり、絵馬のようにみえる。そこから適当にペンを数本選び買った。


帰り際、建物の玄関付近で、何かのイベントか歌手が歌をうたっているのに出くわす。はっきりと思い出せないけど、その歌手は昭和のコメディアンで、曲もコミックソングということだけはわかる。まわりには人垣ができていて、歌にあわせて手拍子をしているのだけど、彼の声は歌詞さえ聞き取れないほど枯れていて、私はみていてつらくなってくる。往年のよさがでていないのに周りが懐かしさだけで盛り立てているという状況がみえて。はやく帰ろうと靴を履いたら、その時にあのさっき知ったばかりの「飴の歌」を歌手がうたいだす。あの曲は彼の持ち歌だったのだ。声もさっきとは比べ物にならないほど伸びているし、節回しも録音よりいきいきしてるくらいだ。私は人垣に参加し、胸をふるわせて彼の歌を聴いている。