川を越えた街の巨大ショッピングモールで道に迷っている。一本道をすすみ、いきついた先はふぐ料理屋の裏口で、この店内を抜ければモールの中心部へ戻れるようだ。もう私には引き返す体力が残っていない。「すいませーん!」と言いながら、脱いだ靴を両手にもって店に入った。

奥から「はいはい」と店主の年配女性が応えた。どうせ迷ったんでしょう、よくいるんですわしゃあないなぁ、というような慣れた調子の声。「ほんとに申し訳ないんですが、汚しませんから通らせて頂けるとありがたいのですが。また必ずこちらに来ますので」と、私は頭を下げて、謙った調子でいった。「通らせて頂けるとありがたいんですか。またここに来ますんやな。まあ構いませんよ、もうあんたさんは来ないと思いますけど」と店主は不快感を隠さず鸚鵡返しに嫌味を重ねる。たしかにその通り、私には必ず戻ってくる気などない。軽い方便がばれてしまったと情けない気分で店をあとにし、いや、それならもう一度絶対ここに戻ってきて驚かせてやろう、それが仮に店主の狙い通りでもお互いになんの損もないからな。と考え看板をみると、コース料理が一人前6000円とあった。

 

ふぐ料理屋を抜けて、エスカレーターに乗り、最も高い場所にあるゲームセンターにたどり着いた。そこは巨大モール内にあるにしては寂れた施設で、ジャンケンマンやテトリス、ストⅡと、30年前からまるで設備投資してないようにみえる。異様なのは筐体が各々バラバラの角度をむいて置かれていることで、与えられる印象は遊戯施設というより廃墟か倉庫である。部屋の中心には半分が垂直に立った卓球台があり、そこで少年が壁打ちをしていた。

この場所には少し興味をひかれるが、でもなるべくはやく帰らないといけない。エスカレーターを降りようとする私の頭にピンポン球があたった。少年は恐縮してしまうだろうから、こんなのは何でもない、気にしてないのをきちんと伝えて安心させようと、大人を演じるつもりでボールを拾おうとするけど、それは不自然な転がり方でどんどん遠ざかっていく。少年は足元にかえってきたボールを拾い、まるで私が存在しないかのように一瞥もなく壁打ちを再開する。