知らない国を数人と旅する夢。若いガイドの女性が案内するあとに付いていくうち、だんだんと建物のない街外れに景色が移り、いつのまにか我々は赤い土のうえを歩いている。
「ここが目的地のひとつです」
立ち止まったガイドが指さしたのは、緑と水色がマーブルの、少し透き通って光る、細長い、豪雪地帯の道にあらわれる雪壁のようにそびえる一枚岩だった。
「この岩は石鹸岩(せっけんがん)とよばれるもので、その名の通り、体をこすりつけると泡がでる、正真正銘の石鹸です。香りも洗浄力もこの上ない品質で、アイドル――たとえばモーニング娘のメンバー全員が、ここに訪れ垢を落としたこともあるそうです」とガイドが言う。
私が岩に右腕を擦らせてみると、たしかに泡と花の香りがあたりに漂った。
「ガイドさん、この岩はいつからここにあるんですか?岩が減っていってるのか、何か自然の力でカサが増えてるのか知りたいんですけど」と質問すると
「そのへんはわからないですよね」と言ってガイドさんは笑った。そんなこと今まで誰も訊かなかったし、突っ込むような話じゃないでしょというような、あっけらかんとした声だったので、私もどうでもいいような気分になった。
まもなく集団は石鹸岩をあとにして先に歩き出す。石鹸岩か、いいみやげ話ができたなと、楽しい気分になりながら、我々は登山道に向かう。