大きなホテルに閉じ込められている。

このホテルはカードキーを使って外に出る仕組みになっているが、私はそれを持っていない。ということは、どうも許可を得ず忍びこんでしまったらしい。

こうなればもう、誰かがガラスのドアを開けたのに合わせて、気づかれないように脱出するしかないかもしれないと思った。身をかがめたりせず、むしろ堂々としている方が怪しまれないはずだろう、と機を窺い、一組の家族連れが出ようとするときに、私は彼らの一族であるかのように後を歩いて、脱出に成功した。

家族の父親はショッピングカートを押して車まで運んでいった。どうもここはホテルではなくスーパーだったようだ。建物をあらためて見ると、金色の手すりが、手の届かないほど、壁のように高く出口と入り口のあいだを遮っている。全体に高級感を出そうとした結果ものものしさばかり伝わってくる造りで、好きになれない外観だと思った。私はそこから出られた解放感をあらためて噛みしめた。

 

家に帰ろうと歩いているうちに、いつの間にか、湿っぽく暗いトンネルの中に入り込んでいた。どこに繋がっているのかもわからないので不安になるが、前をあるく集団が楽しそうに会話しているのですこし気が軽くなった。

彼らは最近買ってよかった飲み物について情報交換している。これを飲んだら睡眠の質があがったとか、あれはドレッシングに混ぜて使えるとか、目がすっきりするだとか、それぞれの特徴が口々にあげられる。自分はそれを覚えておきたいと思うけど、商品名が「のあ」とか「あわ」とか「うゆ」とか、やわらかい発音の2文字ばかりなものだから頭の中でごっちゃになってしまう。ひとりの男は、それらの効き目を自分でためして、よかった飲み物を飼っている鳥に飲ませるのだという。その鳥はもう絶滅することが決まっている種の、最後の一羽らしい。

「できるだけ長生きさせてあげたいんだよ。昔の仲間のためにも」と彼はいった。