夢のなかの私は警察官で、同僚たちと講義を受けるために廊下を歩いている。たどりついた講堂は広く、壇上にたつ60歳くらいの署長が全員の到着を見届け、席に座れと号令をかけた。署長はしっかり背筋をはってゆっくり視線を動かし、よく通る低い声で話す。彼には堂々とした人物の特徴があらかた備わって、またそれが堂々とした人間に見られなくてはならない職務上のポーズであることも隠していない、警察官としての年季を感じさせる所作がある。

もしなにか質問されたときあまり大声を出して答えたくない、という理由で私は1番前の正面席を選んで座る。と、講義がはじまった。殺人事件における適切な初動捜査がテーマのようだ。

私はノートに署長の顔を鉛筆で描きはじめる。彼の姿はなぜかすでに絵のように陰影が決まっていて、なんだかそれを模写しているような気分になってくる。私の手は迷いなく動き、紙には意外なほど正確なデッサンが出来上がりつつある。隣では制帽を深くかぶった男が、私と同じように署長の絵を描いていた。

自分のノートに視線を戻すと、今まで描いた陰影が、徐々にシンプルな線へと集約され、漫画的なイラストに変化していく。生き物のように、自動的に。私はそれをみて、これはうまく描けたから影の方が正しい道(線)を作り始めたのかもしれないと感じていた。絵の署長はもはや威厳豊かな風格をもった人物ではなく、さくらももこの描く老人のような、丸くひょうきんな印象のフォルムに落ち着いた。別人のようだが、しかしよくみれば似ていなくもない。

 

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