広い迷宮を探索している。迷宮の中心には元世界チャンピオンのボクサーが住んでいて、彼に見つかった訪問者はほとんどみんな殴り殺される、という、ミノタウロス神話のような設定。

迷宮内の暗い通路を歩いていると、壁一枚隔てたところからボクサーの走る音が聞こえる。トラックが通るときに似た騒々しさで、普通の人間のサイズを軽く超えた体なのだろうと想像できる。音は円を描くように私の周りを回り、少しずつその速度は上がっていっているようだ。

迷宮のどこかにはバスケットコートがあって、ゴールにボールをいれるとボクサーは理性をとりもどし、人を襲わなくなる。そのようなルールを思い出したら、目の前に通常の3倍ほど大きなバスケットのリングが現れ、私は両手に、やはり規格外に大きなボールをいつの間にか抱えていた。迷わずボールをゴールに投げるが、それは跳ね返ってまた手におさまる。何度繰り返しても同じ結果だし得点をいれた手応えもない。よく確認するとリングだと思っていたものは、さかさに取り付けられたゴング(これも巨大な)だった。こんなものにボールを当てていたとは、音が壁をこえて響いて、ボクサーに気づかれたにちがいない。と、その場をはなれようとふり向いた正面に、ボクサーが立っていた。彼の頭には毛が一本も生えておらず、先端が尖っている。目は異様に大きくほとんど黒目で埋められて、まるで象の瞳だなと私は思う。ボクサーはこちらをみているが、視線の焦点があっておらず、私は体をかがめて彼の股の下をくぐって逃げだした。

どこかから人々のざわめきが聞こえ、私はそちらにむかって走り出す。合流すれば助かるかもしれない。彼らにボクサーを倒す力はないのかもしれないけど、何にしても1人で死ぬよりはましだろう。

 

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