我が家に大学生15人ほどがやって来た。彼らは男女半々で、同じサークルのメンバーらしい。何かもてなした方がいいと思うけれど、みんなそれぞれ飲み物を手にしているし、誰からも挨拶なく、私に興味を持っていない様子なので話しかけづらい。若者たちは数人ずつのグループに固まって歓談しているが、私は全員1度集まって、ここが他人の家であることだけ思いだしてもらいたい気持ちになり、奥の部屋からギターをとって演奏した。とにかく音楽を流せば、一時でも空気がまとまるはずと思ったのだ。が、うまくいかない。いくら強く弾いても、輪ゴムをはじいてるくらいのもごもごした音がちいさく鳴るだけで、おしゃべりな客たちの注目を惹くには弱すぎた。自分の体にはしっかり振動が来るのだが──。これはどうやら私の着ているセーターが吸音素材でできていて、グレーの毛が、音が外にむかって響くのを阻害しているらしい。

さっさとこれを脱がなければならない。セーターの袖から両腕を抜き、生地を裏向けにして、あとは首を通せばというところまで来たとき、今さっき吸ったギターの音が内側でうるさく鳴り響き、ジャーン!という開放コードと共にセーターは体から剥がれ、私は解放された。

あらためてギターを弾き始めたが、目の前には痩せた男1人がいるだけになっていた。曲が終わると彼は「いいですね。趣味ってそれくらい単純で、なんでもないもので良いんだと思いますよ」と言った。褒められているのか貶されているのかわからないが、表情をみる限り、彼に皮肉をいう意図はなさそうだった。

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