知り合ったばかりの女性と知らない田舎町を巡っている。左右をセイタカアワダチソウが占領した畦道を通りながら、廃屋の屋根にかぶさるほど大きな銀杏の木が金色の葉を散らしているのがみえた。いくつかの商店を横切ったが、いずれも中は暗く静かで営業しているかどうかわからない。公園では足のながい蜘蛛が錆びたすべり台に巣を作ろうと狙っているくらいで、人の気配はない。どこまで行っても同じような家、塀、交差点、看板がつづくばかりだった。遠くのバイパスからバイクの走る音が海なりのように長く響いてくる。

横を歩く女性が急に目を細めて不満を漏らした。せっかく長い時間かけてやって来たというのに、ここはがらんとしてまるで見るものがない。おまけにあまりにも自分の故郷に似過ぎている──と。

「しがらみから離れようと思って来てみたら、無理やり昔の記憶を見せられてるみたいでぜんぜん楽しめないんだけど」

「まあ、そうは言っても、ここは日本によくある町だし、日本は日本によくある町だらけの国だから」と私は愚痴をいなそうとした。「それに細かくみれば違いだって見つかると思う」

そう言いながらも彼女の気持ちがわかる気がした。変化への期待が持てないうんざりした気分に支配されたら、ときに人は近くの誰かに当たりたくなるものなのだ。

それからまたしばらく歩き、気がつくと、目の前に小さな神社があった。石の鳥居の向こうに境内がみえるが、右を向いても左を向いても、真うしろにも、我々を囲うように鳥居がたっている。これはけっこう珍しいことなんじゃないだろうかと思った。そういえば、この町にはやたらと鳥居が、何でもない場所に点在していた気がする。しかも右の鳥居は、はしの部分がすべて丸みをおびて鉄アレイみたいなデザインだ。

ほらここに、こんなへんな、可愛らしい鳥居があるよ。やっぱり探せばどこの土地にだって特色は見つかるものでしょう。そう私は呼びかけた。すると

「あった……。この丸くてへんで可愛らしい鳥居は、私が育った家の、すぐそばにあった。部屋の窓から見えてさえいたから」とその人は言った。