知らない人10人くらいと長方形の大きなテーブルで食事をしている。どうやら半数は中国人らしい。白いテーブルクロスの上にワインと様々な料理が並べられ、部屋の内装も華やかなのだけど、みんな黙って雰囲気は暗い。

私の目の前には鳥の丸焼きがあり、左に座っているタキシードの男がそれについて小さな声で説明をはじめる。
「この鳥をごらんください。目が青いでしょう?」
たしかに鳥の目は真青で、少し伸びていて、駄菓子的なつくりもの感がある。私にはそれが気味悪く感じられて、ずっと食べる気になれないでいた。彼は話を続ける。
「この青い目はね、元々こうだったわけじゃないんですよ。これは『悪猫』の胃袋で過ごす事によってこの色になるのです。
悪猫というのはですね、悪い猫と書きまして、中国では猫がいたずらばかりしたり、人に危害を与えたり、つまり人の手に負えなった猫を山に捨てに行く風習がありまして、人の社会の外に離さざるを得なかった猫。のことを『悪猫』と呼ぶのですね。
猫は悪猫になると、鳥を噛まずに丸呑みするように変化するのです。そうです、蛇のように。野生の鳥を丸呑みして、しばらく経ったところを我々が捕まえて、悪猫の腹を切ってとりだした鳥が、今そこのお皿に乗っているというわけです。悪猫の腹で寝かされた鳥の目はこのように青く澄んで、ゼリーのようになります。おいしいですよ。熟成していますから」

手に入りにくい貴重なご馳走なのだと説明してくれている熱意は伝わるのだけど、詳しく知るほど私の食欲は失われていく。

突然、中年の中国人が立ち上がり、怒った様子で部屋をでて、それにつられるように他の中国人も全員場を去ってしまった。残った日本人達はその原因をあれこれ想像するがよくわからない。