年をとるにつれて姿が虫に化わってしまう奇病を患った女性芸術家が、カフェで冷たい飲み物を飲んでいる。彼女は大きな帽子をかぶって、肌の大部分を覆う衣装をつけているが、目に違和感がある(眼球の動きが感じられない)以外に虫をおもわせる要素はなく、まだそれほど病状は進んでいないようだ。(しかし現在はほとんど虫になってしまったことを夢のなかの私は知っていて、だからこれは過去の情景なのだと思っている)

女性芸術家の向かい側の席のまえにもひとつ飲み物が置いてあり、彼女はなにか話をしているが、椅子には誰も座っていない。近づいてよくみると、テーブルの上に、マッチ箱の半分くらいの大きさの生き物がいる。それは長方形で薄く、彼女の方をみて立っているのだとわかる。真っ黒かとおもえば、一部分が灰色になったりと、常に全体の濃淡が変化しつづけているのだけど、彼女は微笑みながら頷いて、その動きの意味を理解して対話できているようだ。

「私は幼い男が好きなの」と彼女は(おそらく私に)言った。幼い男とは、その黒い生き物のことなのだろう。それは幼さそのままでいようとしたために、―というか「幼さ」という観念が結晶化した純粋な存在であり、人間にも、虫にさえもなれなかったのだ。彼女は彼を心から愛していて、作品づくりの原動力となっているんだなと私は思う。どんな作品を創っているのかは全然知らないのだけど。