子供のころ住んでいた家にいる。居間の天井から垂れ下がっているロープを体に巻きつけて、ドンと床を叩くと仕掛けが作動する、と誰かから教えられたのでその通りにすると、天井が開いてロープがまきとられ、私の体は上の階まで持っていかれた。たどりついた部屋は屋根裏のようだが、テレビとソファーが設置されくつろげるようになっている。しばらくそこでテレビゲームをしてから、細い廊下をぬけて、たくさんのライトに照らされるプロレス会場にでた。これから「敵」と戦わなければならない。

リングにはもう対戦相手が入場している。相手の髪は昭和の不良みたいなリーゼントで顔面に迫力はあるが、体は生白く華奢である。これなら勝てるかもしれない。ゴングがなり、力比べに手を合わせてすぐ、腕力ではこちら有利なのがわかった。相手は苦しそうに首をかたむけ、この状況と関係ないことを話しはじめた。裏声で。天気とか、好きな煮魚とか、普通の雑談を始めたいようだ。私が答えないでいると、彼は「俺も入れてえや」という。

この裏声はリングで戦っているリーゼントの言葉ではなく、もう1人、べつの意思を持ったおっさんからの声で、そのおっさんが我々2人に混ざり、関わりたがっている、という設定を演じているらしい。彼は敗北を認めないまま試合を終わらせる意図で、調停役の第三者を登場させようとしているのではないか。

実況席には不必要に思えるほど多くのタレントが並んでいるが、その裏声の冗談を聞いて、ひとり残らず笑っている。私にはそれが不愉快に感じられる。この人たち、真剣な戦いを見にきたにしては軽薄すぎるんじゃないかと。対戦相手が再び「俺も入れてえや」という。今度は会場中の観客がどっと沸いて、私もつられて笑いそうになってしまう。