光線を当てると塩分濃度を測れる機械が床に転がっている。私はそれを拾い上げて、自分の腕にかざしてみると、モニターに「7%」と表示された。測定器の見た目は赤外線温度計とそっくりである。おそらく知らない人がみたらみんなそう思うだろう。

外は大雨で、屋根をぬけて雫が垂れてくる。畳を濡らしてはいけないが、私は機械のほうに興味があって、ポタポタと鈍く雨漏りの落ちる音を放置する。

テレビをつけたら料理番組が始まった。画面のなかに赤い鍋に具材を大きく切ったスープが煮えている。私は機械のスイッチを押して、まっすぐのびる光をその料理に合わせてみた。プロがつくった料理の塩分濃度を知れるのはありがたいし、真似るとき基準にできるからな。と思っていたら、画面は切り替わり、料理人の顔が映される。塩分を測るには5秒ほどの時間が必要なのだけど、なかなか画面が一定せず、その隙を与えてくれない。ようやく落ち着いたときには、今度はアングルが低すぎてうまく鍋に中に光をあてられない。

そうこうするうちにエンディング音楽がながれて、シェフとアシスタントがこちらに向かって手を振りはじめた。スタッフロールが流れるが、しかしそのスピードがあきらかに速すぎる。目を左右に動かして追っているのに、私は1文字も読むことができない。

水の匂いが部屋に広がって、靴下が湿ってきているのを感じる。

 

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