豪奢なペルシャ絨毯に膝をついて、20個ほどのガラス玉をドミノのように並べている。遠くに小さい球を、近くになるほど大きな玉を置く。私はそれでうまく惑星直列を表すことができればいいと思っていたけれど、しかし考えてみれば星の大きさは距離に因らずまちまちなのだから、サイズにこだわる必要はない。そう途中で気がついて、決まりを持たず進めることにした。

目の前の椅子にはひとり知らない男が座って、私の作業を眺めていた。男はこの行為に興味を持っていないが、かといって馬鹿にするほど無意味とも思っていないようだった。私はガラス玉をすべて並べ終えて、これですこし調整をしたら完成だなとひと息ついた。それをみた男が、絨毯の上に乗ってきて、あぐらを組み、音頭をとるように手を揺らしながら朗々と歌い始めた。バルカン音楽の管楽がどこからともなく流れ、場はとおい異国の音に支配された。そうか、彼の歌は呪文であり、これによって我々の乗っている絨毯を浮かそうとしているのだと気が付いた。じっさい絨毯は、もそもそと生きもののように波打ちはじめ、すぐにでも飛び立ちそうなほど動きを激しくしている。音楽の力でひとを浮かべられるならこれほど素晴らしいことはない。私は魔法のちからを後押ししようと手拍子を打った。

するとそのとき、絨毯の下から犬が一匹這い出てきた。コリーにしては小さく、ミニチュアダックスにしては足の長い、毛並みの美しい犬がこちらを見て、舌を出し、人懐っこく絨毯のうえに転がってみせる。なんだ、あの揺れは犬が暴れていたせいだった。やはり絨毯が飛ぶわけはないのかと、少々がっかりしながら私は、いま現れた犬を、いつかうちで飼っていたのではないかと思った。この犬は暗く狭い場所にながくいたせいで気が弱くなり、それに合わせて体も小さくなったのかもしれない。だからはっきり見分けが付かないだけで、初対面ではない、と直感がそう言っている。犬はこちらにお尻をみせてひとつキャンと吠えた。その涼しい声をきいたとき、奇妙な一体感を覚えて、自分はこの犬とこれから長く一緒に生きていくのだと思った。

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