野良犬が家にはいってくる。中型の黒い雑種。きれいな毛並みで、人に慣れている様子で怯えるでもなく、どこかの飼い犬が迷い込んだのかもしれないなと私は思う。
犬は足が悪い様子で、びっこをひきながら私の足元にきて、どさっと倒れ、動かなくなる。それからとつぜん背骨をまっすぐに伸ばす動作をする、と、ポキっという音が鳴った。自力で外れた関節を治したのかなと眺めていると、音の出処はべつだったようで、犬の首がきれいにとれてしまった。


私は犬を埋めるために「犬を埋葬する施設」へ、かれを抱いてむかった。
「犬を埋葬する施設」は洞窟のなかにあり、進むにつれ地中にどんどん潜っていく。薄暗い一本道を、死んだ犬をつれた人々があるいているのがみえる。私の抱いている首なし犬の胴体はまだ暖かく、バラバラにされても歩こうとする蟻のように、まだ生きているようにしかおもえない。


「犬の埋葬する人」は洞窟の奥で、暗い顔をして、横にずらっと5人ほど並んでいた。全員のまえには書類が置いてあり一見郵便局かなにかのようだが、椅子や机は廃品かとおもうほど汚れているし、足元はぬかるんだ土で、昨日来ていそいで「ここにしよう」とつくった職場のようにみえる。私の前に1人、中年男性が地べたに座っている。「犬の埋葬する人」たちは中年男性に冷たい罵声を浴びせかけ続けていた。私はそれをみて義憤を感じ「自分の犬が死んだら人は弱るんだよ。弱ってる人を攻撃しておもしろいのか」ということ(言葉はこのとおりじゃないけど、そういう趣旨の怒り)を大声でどなって、そこを去る。


首なし犬がいなくなっていることに気づいて、洞窟深くにさがしに行った。
より静かな、より暗い場所にたどりつき、そこに老婆がいるので話しかけると、私の犬をもう埋葬したという。「あのこはまだ生きていたようだけど」と私が言うと「特別深いところへ投げ込みました。わかってほしいけど、どんな死に方をした犬であっても、埋葬することはつらい。それは死んだものに、もう1度死を迎えさせることだからね」と老婆がいった。