スーパーでフリーペーパーをとって読んでいると、なかに工作の付録が入っていて、それを私は指示通りにくみたてる。できあがったものは小さな紙製の箱が2つと、コードが1本。コードの先には金属のクリップがついている。
そのクリップを植物につけると「植物の声」が聞こえるのだそうだ。

それにはひとつイヤホンジャックがついていて、早く試してみたいと思った私は二十歳くらいの青年に「イヤホンがあったら差し込んでみてください」と声をかける。彼はこころよく自分のイヤホンを繋ぎ、私はクリップをちかくにあったアロエのような植物にとりつける。あ、鼓動が聞こえる、と青年が言う。何故かその音はイヤホンをつけていない私にも届く。

「これは植物の声をきく装置なんですよ」と説明すると青年は笑顔になって、そうなんですか。いい体験ができました、ありがとう、と、私にイヤホンを渡して去る。それじゃじっくり聞いてみようかと思い「植物の声」に耳を澄ます。どん、どん、どん、という鼓動と、水の流れるかすかな音。そして植物を触ると、触れた瞬間にひねまがった電子音のようなものが聞こえる。私はその機械をインチキ、というか(バウリンガルのような)適当なユーモア商品であると思っていて、本気にはしていなかったのだけど、その音の組み合わせを心地よく感じている。

これを他の誰かにきかせてみようと思って、近くの、50代くらいのおじさんに声をかけた。おじさんはイヤホンをつけて、しばらくは不思議そうにしていたが、植物をつついた瞬間に目をみひらき、驚いた顔を私にむける。我々はいつのまにか植物園に移動している。しばらくは同じ音が鳴っていたけれど(やはり音は私にも聞こえた)突然植物がしゃべり始める。
「あーあーあー、サツラ、サルクベリ、ツクジ、キキーウ」と、まわりにある植物の名前をつぎつぎという。サツラは桜、キキーウはキキョウで、真ん中の音をすこしかえるのが植物語の特徴らしい。おじさんは目を輝かせてそれを聞いている。私もこうなると信じざるを得ない。この機械は本物だ。