お土産を買いすぎて持ちきれなくなり、夜の駅で立ち往生している。売店のそばに樽を見つけ、近寄ってみてみたら樽の上部が開いているので、これはちょうどまとめるのに便利だとそこに荷物を全部詰めこんだ。その樽は両手を巻きつかせてやっと持ち上げられるくらいの大きさで、これを抱えて電車に入るのはためらわれるな。と思ったけれども、しかし明治ごろは汽車に樽を持って入る人くらいたくさんいたはずだし、きっとなんてことはない、混雑時じゃなきゃ大丈夫だろうなどと勝手な理屈をつけて改札へ向かう。

途中に鯖寿司を売ってる店があり、食欲をそそられて買おうと思うが店員がいない。しばらくして奥から女性が身支度をしながら現れる。彼女は駅長の妻で、駅員は家族を含めてみんなこの駅に暮しているようだった。女性は金を受けとると素早い仕草で鯖寿司を樽に入れる。まるで非合法な薬物でも取引しているように、周りを気にしながら。もしかしたら食品販売の許可を取っていないのかもしれない。何にしても自分は鯖寿司を手に入れたから満足だし、リスクを冒してまで売る鯖寿司はきっと美味しいものなんだろう。さっさとこれを持って帰って食べたいなと考えているうちに、いつの間にか私はバスに乗っていた。樽は置いてきてしまったようだ。惜しいことをしたと思うけど、窓の外では川が光ってきれいで、それを眺めていたら諦めがついて、駅での出来事は随分昔のことだったのではないかと感じられてくる。あれは本当に遠い昔の記憶なのかもしれない。

 

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