スーパーで輪切りにされたナスが売っているのを見つけた。それは鯖寿司のように一度切られたあと元の形に揃えてパックされ、ナスとナスの間にはきっちりすべて半透明の紙が挟まっている。紙の見た目はふつうのキッチンペーパーと同じだが、どうやらそれには切り口から酸化するのを防ぐ効果があるらしい。

私は輪切りナス一本分を買って持ちかえり、台所で焼いてみた。その途中、紙をつけたままフライパンに入れていることに気がついた。あ、これでは料理がだめになってしまう。失敗してしまったな、と悔やんでいると、紙はボッ、ボッと音を立ててつぎつぎに着火し始めた。その様子にはポップコーンが弾けるところや、蒸されたあさりが口を開いていくのを眺めるときに似た面白さがある。あらかた紙が燃え尽き、これからどうしようかと考えていると、椅子の下から赤色の派手な帽子をかぶった男が現れ「こんばんは!」と明るく挨拶した。彼はこの紙を製造している企業の広報なんだそうだ。渡された名刺にそう書かれている。

「ご安心ください。我が社の製品は自然素材でできておりまして、食べても害はありません。そして今お客様がご覧になったように、熱すればすぐに発火して、姿を消しながら食材に良い香りをつけるのです。いわゆるフランベの効果ですね。安全性を考えて燃え尽きる時間を計算していますので火事の心配はありません。それでは、是非またのご利用を」と言い残して、男はドアを開けて去っていった。

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