部屋に暖房をいれて待ってみても外で浴びた冷気が体に居座るので布団に潜りこんだが、毛布のぬくもりは芯まで届かない。とりわけ右足の指先からふくらはぎにかけて氷のように冷たい。あまりにも右足がしびれるから、悪寒の根本原因はここなのではないかと思い至り、いっそ取り外してみることにした。

カニの関節を外すようにひねると、足は音をたてず、痛みもなく膝を境にわかれて、私はそれを大きな大根でも持つように抱え、そのまま玄関をでて整骨院へ向かった。外科ではこのように妙な患者は受け入れてもらえないかもしれないが、整骨院ならあるていど融通がきくのではないかと思ったからだった。これをどうにか蘇生しないといけない。

そのとき片足の欠けた自分がどのように歩いていたのかはわからない。自分の体もみえない真っ暗闇のなかで、右足を持ち運びながら、おかしなことに私は、たしかに両足で歩いていたようだ。

目的の整骨院の外観は、小学生のころ通った歯医者によく似て、洒落た出窓のある、緑色の屋根の一軒家だった。インターホンを押すとしばらくしてドアが半分あいて、すきまからパジャマ姿の女性がこちらを一瞥し、ため息をついた。それから訪問販売員にいうように「間に合ってます」とだけ呟いてドアを閉めようとしたが、私は抱いていた右足を差し出して「売りたいんじゃなくて温めてほしいんです」と、切ない顔をつくって同情を買おうとした。

整骨院には電気治療の機械が置いてあるはずです。それをうまく使えば血流が戻るかもしれない。もちろん今すぐにとは言いません。足を預けるので手の空いたときにでも処置していただければ──と、懇願をつづける。

橙色の明かりが玄関から漏れて私を照らしていた。そのせいか、足は家を出る前より生気があるように見えた。サイズも少し膨らんで、もう冷たくない。すっかり良くなっている可能性もありそうだと思った。