街から遠くはなれて、私は小さな土蔵を借りて生活している。レコードを10枚ほど軒先の棚に置いていたはずだけれど、外にでて見ると、それらは全て盗まれてしまっていた。まわりには木が生い茂って門はない。だから誰でもどこからでも忍び込める構造ではある。とはいえ、こんな辺鄙な場所にわざわざやって来る人はじぶんを知っている者なのではないか──と推測はできるが確かめる術はない。

それから、棚の上には通帳やカードといった貴重品を置いていたんだったと思い出した。となると犯人を探さないといけないわけだけど。しかし今から走って追いつけるとも思えないから、警察に任せるしかないのかもしれない。心の中では、ものを盗られた悔しさというよりは、これから始まる長い手続きを想像して億劫な気持ちがふくらんでいった。そもそもあの棚は掃除もせず埃が積もっていたし、私に管理する気がなかったからこういう事件を招いたともいえる。

蔵の壁には、荒らしを免れた一丁のライフルが立てかけられていた。そこに装填されているのは薬莢と弾丸ではなく、飲み薬のカプセルのようなもので、その中にはひとつひとつ、さまざまな植物の種が詰められているらしい。私は銃口を地面に向け、ズドンと一発撃ち込んでみた。

カプセルはすんなりと、熟練したとび込み水泳選手のように直線的に地中へめりこみ、やがて水面の波紋が消えるのと同じ自然さで、跡はすっかり元通り塞がってしまった。

玄関先にはセンリョウが赤い実をたくさんつけているから、私はこのまわりを賑やかにしてやろうと、そこを狙ってスコープを覗き、引き金をひいてカプセルをいくつか埋め込んだ。春になればきっとここらにきれいな花が咲くだろう。