男がPCで文章を書いている。テクストが完成すると彼はそれを手でひとまとめにしてから小さな紙袋にいれて、口の部分を丁寧に折って封をする。ちょうど小麦粉の袋をしっかり閉じて、粉が飛散するのを防ぐように。男がモニターの中に入ったのか、それとも文字が物質化したのかわからないが、私はその光景を不思議には思っていない。

静かに作業しないと内圧がもれて空気の流れと共に文字が出ていくかもしれないし、一度外に出たものを拾い集めて再構成するのは難しい、と男はそのように考えているようで、折り目を何度もチェックして、それから満足したのか袋をつかみ、ネット上にそっとのせた。

私は彼の置いた袋をタブレットを通してみているが、タッチしても中身の文字を読むことはできない。パスワードをつけて知り合いのみに見せる設定や課金制でもない。入り口は男の望み通り閉じられて、画面をスライドすると同じような袋ばかりいくつも並んで現れる。

 

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